第三者委員会が調査したのは認証試験に合格する目的を持って意図的に行われた不正に限る

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各種報道でご存じの通り、ダイハツ工業が日本の自動車史上において最悪といえるレベルの不正行為をしていたことが同社により発表されております。



話の始点は、2023年4月に発表された海外向けモデルにおいて側面衝突試験でドアトリムに加工を施していたという不正行為についての内部通報があったこと。

その後、国内で販売されているコンパクトSUVのハイブリッドモデルにおいてポール側面衝突試験においても不正があったことが判明、同年5月より第三者委員会による調査が行われることになったのでした。

しかしながら、第三者委員会からなかなか報告書が出てこないな、と思っていたら同年12月20日になってようやく調査報告書が公表。その内容が冒頭で記したように日本の自動車史上最悪レベルの不正だったのです。

なんと、25の試験項目において、174個の不正が判明…というのですから調査に時間がかかったのも納得。発表によれば、『不正があった車種は、ダイハツブランドおよび他社へOEM供給している車種を含め、64車種・3エンジン』ということで、OEM供給を含めてダイハツは全出荷を停止することを決定したというわけです。

もはや、社内調査で生産再開にゴーが出せるような状況でもなく、国土交通省の調査によってクルマに問題がないとお墨付きが出るまでは再開不可といえるのでは?

ただし気になるのは、25の試験項目において174個の不正が見つかったという第三者委員会の調査対象は『認証試験に合格する目的を持って意図的に行われた不正』に限っているという点。国土交通省の調査も認証業務を中心に行われていくのでしょうが、他の分野での不正がゼロという保証はないわけです。

【年が明けて公開された関連コラムへのリンクを追加します】




ダイハツの公式発表リリースにあるリンクにより調査報告書全文を見ることもできます。

その内容を精査していくと、たしかに悪質ではありますが実態には影響のない不正が大半であることも理解できるのも事実。そのため、現時点での発表に限れば「ユーザーの手元にあるダイハツ車がただちに危険とはいえない」と判断できます。

しかしながら、前述したように今回の調査は認証業務に限ったものであり、その中で174個もの不正が見つかったのですから、他の分野で不正がまったくなかったと信じろと言われても素直に首を縦に振ることができないのも、また正直なところではないでしょうか。

この件についてのコラムを、いくつか寄稿していますが、そうしたコラムにおいて「ナンバーがついて運用されているダイハツ車は安心です」と明記できていないのは、こうした点が影響していることも否めません。




1998年11月にハイゼットトラックのフルラップ前面衝突試験において、立会試験にもかかわらず一部データをリハーサル試験時と差し替えて提出するという不正を行ったという。事前に用意したデータを、まるで目前の試験データのように出力するという不正内容は、まったくもって立会試験の意味がわかっていないとしかいえない。
はたして、日本でもっとも歴史のある自動車メーカーである「ダイハツ」ブランドは、信頼を回復することはできるのだろうか。その再生はいばらの道ではあろうが、日本市場にとって欠かすことのできないブランドがどうなっていくのか、目が離せない。



衝突試験では「エアバッグのタイマー着火」という手法も頻繫に行われていたようです。衝撃センサーの信号を受け、エアバッグの展開を制御するのではなく、タイマーによってエアバッグを開くことで衝突試験の結果を得たということであり、これまた意味のない試験となっていました。筆者が報告書を見た限りでは、エアバッグのタイマー着火は複数回行われており、ある意味で常態化していた不正だったといえます。
ブランド価値を取り戻すには10年単位の時間が必要でしょうし、製品ラインナップを急ぎ一新することも必要となるでしょう。

むしろ、現在の生産設備を活かすのであれば、「ダイハツ」ブランドにこだわる必要はないとさえ思えます。まったく違うブランド名に生まれ変わるほうが、市場マインドとしては受け入れやすいかもしれません。
それぞれのコラムから、とくに留意してお目通しいただきたい部分を引用しましたが、いずれにしても個人的にもっともモヤモヤして仕方ない不正は、1998年11月に実施したというハイゼットトラックにおけるデータ差し替え不正であります。

その背景としては、不正の対象となったハイゼットトラックは現在の軽自動車規格に変わったときにフルモデルチェンジした軽トラであり、より厳しくなった「フルラップ前面衝突試験」において新規格・軽トラでキャブオーバーを守ったのはダイハツとスバルだけだったから。とくにダイハツは1BOXはセミキャブオーバー(タイヤの後ろにコックピット)、トラックはキャブオーバー(タイヤの上にコックピット)と作り分けるというこだわりを見せていたほど。

「キャブオーバーでフルラップ前面衝突をクリアするのは難しいのに大したもんだ」と自動車業界で評価が高まっていた裏では、試験データの差し替えをして合格していたんだから質が悪すぎるとしか思えないのですが、さて?

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精進します。

  

投稿者: @sinyayamamoto
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