エコノミー&エコロジー・ドライブにおいて、もはやアイドリングストップは常識。むしろ、今後はアイドリングストップしないクルマはなくなるのではないかと思えるほど。なにしろポルシェだって採用しているくらいですから。

もっとも自動アイドリングストップ機構は最近になって生まれた技術ではなく、かなり古くからあったもの。個人的にいえば1999年あたりに試乗した三菱ピスタチオなんてクルマが印象に残っていますし、プリウスやインサイトといったハイブリッドカーもアイドリングストップで燃費を稼いでいるという面も否めません。また路線バスなどではずいぶん前からアイドリングストップが採用されていると感じているひとも多いことでしょう。

そして2009年を振り返れば、マツダが「i-stop」の全面展開を予感させたり、冒頭で触れたポルシェ・パナメーラがアイドリングストップを採用したことで、一気に普及に弾みがつくのでは? と予感させるわけです。「i-stop」がアピールしているように信号待ちのある市街地走行で有利で、10・15モードで約10%の燃料消費減が期待できるというから無視できません。たとえばアイドリングストップなしで15.0km/Lだったクルマが、アイドリングストップをすることで16.5km/Lになるというわけですから。

実際、自分のクルマ(クラウン)でも手動アイドリングストップをしていた時期もありましたが、たしかに肌感覚としては1割とまではいかなくても5%くらいは燃費が良くなった気がしたものです。もっとも同じ条件で比較できないので、あくまで感覚でしかありませんが……。

では、アイドリング時の燃料消費とはそもそもどのくらいなのか?





まずはアイドリングという燃焼状態がどうなっているのか考える必要がありましょう。アクセルを踏んでいない状態なので、感覚的には空気の量が少ないと思うかもしれませんが、実際には吸気行程では排気量分だけの空気が吸い込まれているので空気量が少ないなんてことはありません。カムの作動もクランクシャフトによるわけですからバルブリフトだってしっかり全開になっているわけです。むしろスロットルバルブの開度が極小なので吸気時の抵抗(ポンピングロス)が大きく、その点がアイドリングでの効率悪化にもつながっているわけ。また空気量は排気量分ありますから、空燃比を薄くとらない限りは、一回の行程において消費している燃料は変わらないわけです(ポンピングロスなどを考えると多くなる可能性のほうが高い)。

というわけで、実際にアイドリングではどの程度の燃料を消費しているのか。排気量2000cc・アイドリング回転600rpmという条件で考察してみようと思う次第。

もちろん4サイクルエンジンという条件ですから吸気行程は2回転につき一回実施されます(実際には気筒ごとに吸気行程は順番にやってきますので同時に吸い込むわけではありませんが)。つまり、アイドリングが600rpmならば全体として300回ほど吸気しているとなります。単純に考えれば、300×2Lで、1分間につき600Lの混合気が吸い込まれているというわけです。これに空燃比を考えれば、アイドリングで消費している燃料が推測できましょう。

まずは空気の質量を1.2g/Lとします。

空燃比とはガソリン1に対する空気の重量比。ガソリン1gを基準と仮定したそれぞれの空燃比での空気の容積をサラっと計算した結果は以下の通り。
<計算結果1>
A/F:12→空気12g→10.0L
A/F:13→空気13g→10.8L
A/F:14→空気14g→11.7L
A/F:15→空気15g→12.5L

シリンダー内は混合気なので、ガソリンと空気を足したものが混合気となります。。ガソリンを780g/Lとすると1gの容積は約1.3ccで、上の数字にガソリン容積1.3ccを足したものが、それぞれの空燃比における混合気の容積……となるわけですが、そもそも小数点以下は適当に四捨五入している粗計算なので、上記の数字を「ほぼ混合気」とみなして、そして今回の条件設定では『アイドリング1分間につき600Lの混合気が吸い込まれている』わけですから、混合気600Lに含まれるガソリン重量と容積を空燃比ごとにサクっと計算した結果が以下。

A/F:12→60g→77cc
A/F:13→55g→71cc
A/F:14→51g→66cc
A/F:15→48g→62cc


というわけで、この結果からすると濃いめの空燃比では1分間に使う燃料は77cc、1時間だと4.6L余りになるということになりました。

間髪入れず「いやいや、それは経験的にありえない!」という声が聞こえてきそうですが、その通りで、ここまでの計算には“ある重要な条件”が加味されておりません。

それは、吸気の圧力 であります。

同じ温度条件であれば【圧力×体積=気体の量】は一定というのが「ボイルシャルルの法則」。逆にいうと、圧力は低く、体積が同じということは、その気体の量が異なるというわけです。

そして、ここまで計算してきた数値の圧力条件は大気中、つまり1気圧(101.325kPa)におけるデータで、アイドリング状態の吸気管圧から考えれば、明らかに高圧な状態。いや、エンジンの吸気管圧が1気圧なんていうのはNAエンジンであればアクセル全開時しか考えられません(過給エンジンではパーシャル状態でもよくあること)。そしてアイドリングなどスロットルバルブを閉じている状態では、かならず負圧域にあります。

クルマで使用する負圧メーターでは1気圧をゼロkPaとしたスケールが一般的で、アイドリングでの負圧は-70kPa前後となっているもの。そこで、ここまでの前提条件が大気圧(およそ100kPa)だとして、アイドリング状態(30kPa)では、どのように変わるか再計算。条件としては体積は変わらないので吸気の量が変わることになります。

100×600=60000

30×600=18000

60000:18000≒3.3:1

空気の量自体は1/3になってしまうというわけ。つまりガソリンの使用量も前述した量に対して1/3にしないといけません。

A/F:12→20g
A/F:13→18g
A/F:14→17g
A/F:15→16g


混合気の圧力を考えると、ガソリンの体積も変わりますが、いわゆる燃費では常温・大気圧下での容積を元にしていますから、上記の重量から、それぞれのガソリン使用量を導きだすと、以下の通り。

20g→15.3cc
18g→13.8cc
17g→13.0cc
16g→12.3cc


というわけで、このあたりの数値が参考になるかと思われます。

あらためて整理すれば計算式は【(アイドリング回転÷2)×(排気量L)÷(計算結果1に基づくAFごとの空気量)×(負圧・例1/3)÷(ガソリン重量→容積・1.3)】となるわけです。さらに大雑把な計算用(すでにかなりアバウトではありますが)としては【 (アイドリング回転数÷2)×(排気量・L)÷39】とすれば、ほんとうに大まかながらアイドリング1分あたりの燃料消費量が導けます。

といっても、上記の計算方法はいずれも話のネタ・レベルのものなので、あくまでも参考程度と思っていただければ。

なお、なぜに4種類の空燃比で計算してきたかといえばアイドリングにおいても暖機状態などによって空燃比が異なるものだから。冷えているときはAF12以下のこともありますし、温まってくれば理想空燃比の14.7前後となります。またエアコンやオーディオなどの電装品を使用しているときやオートマのDレンジのまま停止しているときには、見た目の回転数は低負荷状態のアイドリング値に近くても実際には回転が上がっている状態といえますから、計算するのであればそもそものアイドリング回転を高めにする必要があるでしょう。

ちなみにエアコンの負荷による回転上昇は排気量が小さいほど大きい傾向にあるので、コンパクトカーや軽自動車はエアコンを入れたアイドリング状態では1.5倍程度まで実質的な回転(負荷)が上がっていることもあります。このあたりの数字を入れて計算すれば、エアコンによる燃費悪化が大きいというのも確認できるはず。なにかの参考になれば幸いです(笑)

さらにいうと、ここでは温度という条件を外しておりますが、それも見逃せないデータですから、より正確な数値に近づきたいというならば温度での補正も行なったほうがいいのは当然です。ただし温度の単位はK(ケルビン)で計算すべし、であります。たとえば摂氏30度と60度を比べるのであれば300K、330Kあたりになるというわけです。

動画はイメージです